中外日報平成23年7月7日号に記事が掲載されました(2011/07/07)

法華仏教研究会について

                                          法華仏教研究会主宰  花 野 充 道

 去る六月二十五日、駒沢大学大学会館において、法華仏教研究会主催の記念すべき第一回公開講演会が開催された。講師と講題は次の通りである。

  ①『法華経の本迹論と日蓮教団の分裂』  布施義高(法華宗陣門流教学部長)

  ②『本覚思想とは何か』  花野充道(法華仏教研究会主宰)

  ③『大乗起信論の成立問題とその思想』  吉津宜英(駒沢大学教授)

 当日は、多くの聴講者によって、会場がほぼ埋まり、活況を呈した講演会となった。

 法華仏教研究会の発足理念と、第一回公開講演会に至るまでの歩みを紹介させていただきたい。

 日蓮系の教団ほど宗教法人の数が多い教団は、他に類を見ないと言われる。それほど日蓮教団は、日蓮滅後から今日に至るまで、分裂に分裂を重ねてきた。分裂するたびに、新たな近親憎悪が生まれ、各教団がそれぞれ自讃毀他を繰り返すだけで、建設的な議論の機運はなかなか醸成されることがなかった。他の日蓮教団と同じテーブルに着いて、宗祖日蓮の真実を議論するよりも、自分の教団の中に閉じこもって、教団の教義を自讃しているほうが安逸だからである。

 しかし、そのような閉鎖的な日蓮教団にも、解放・改革という時代の光は射し込んできた。日蓮の思想を教団内に閉じ込めておかないで、広く世間に開放していこうという試みは、福神研究会の『福神』の刊行から始まった。『福神』は、歴史学の分野で顕著な日蓮研究の成果を挙げられた高木豊氏のアドバイスを得て、教団外の知識人との交流を通じて、日蓮思想の解放を目指したのである。

 それと呼応するかのように、日蓮思想の再歴史化という大きなテーマを掲げて発足したのが、本化ネットワーク研究会であった。「本化」とは、本仏に教化された地涌の菩薩、すなわち日蓮門下を指す用語である。各教団の中で、ただ法務をこなして事足れりとするのではなく、宗派の枠を超えて、日蓮の思想を現代社会の中で、どのように実践するか、という時代の要請に真摯に応えようと発足したのである。

 この法華仏教研究会の発足も、同じ流れの中に位置しているから、後世の歴史家は、平成時代に起こった宗派を超えた日蓮思想の研究・実践・解放の運動と評するであろう。

 法華仏教研究会は、日蓮思想のオープンな議論と学際的な研究という目的に重心が置かれている。それまで日蓮研究誌は、各教団・各研究所が刊行するものに限られていて、研究者が所属の組織を超えて、自由に議論し合う場がなかった。しかも各組織で刊行する研究誌は閉鎖性が強く、組織の構成員以外の論考は受けつけないのはもちろん、購読すらままならない場合も多かった。

 閉鎖的な各組織の中で、ただ宗学と宗史の論文を書いているだけでは、日蓮研究の深化はなく、また日蓮思想の流布もかなわないから、日蓮研究を解放して、オープンに議論していく研究誌を創刊しよう。このように思い立った私は、まず佐古弘文氏と布施義高氏に相談した。両氏とも、「日蓮門下全体にとって意義のある構想である」と全面的な協力を約束してくださった。続いて福神研究会や本化ネットワーク研究会にも声をかけ、上杉清文氏、澁澤光紀氏、西山茂氏、大賀義明氏等々の賛同を得て、この三会が連携しながら、日蓮思想の解放・再歴史化・研究に取り組んでいこうということになった。

 二〇〇九年の一二月に、『法華仏教研究』創刊号が発刊され、以来、早くも八号まで刊行されている。九号は七月に、十号は九月に刊行される予定である。この研究誌は、宗派を超えたオープンな議論と同時に、総合的・学際的な研究が目的であるから、いままでさまざまな視点に立った意欲的な論考が掲載されてきた。

 川口日空氏や間宮啓壬氏は教理学、寺尾英智氏や坂井法?氏は歴史学、佐古弘文氏や布施義高氏は仏教学、末木文美士氏や私は思想史学、東佑介氏や若江賢三氏は文献学、澁澤光紀氏や星野健一氏は宗教学、西山茂氏は社会学、山中講一郎氏(九号)は文学、尾崎誠氏は哲学等々(同一人に複数の論考もあり、このように分類されることに異論のある方もいらっしゃると思うが、なにとぞご容赦願いたい)、それぞれが多様なアプローチで日蓮の真実に迫っている。

 このような理念のもとに研究誌を刊行し、このたび第一回の公開講演会を開催した当会に、ご理解とご指導を賜りますよう、お願い申し上げます。

法華仏教研究会

日蓮研究の深化と日蓮教団の発展を願って、自分の研究や随想、提言などを自由に発表できる同人誌を発刊しています