編集方針

~『法華仏教研究』創刊号「発刊の辞」より~

発起人代表 花野充道

 日蓮聖人の『立正安国論』奏進七百五十年の佳節に、かねてからの念願であった同人誌『法華仏教研究』を発刊することができて感慨無量です。日蓮聖人の滅後から今日に至るまで、分裂に分裂を繰り返してきた日蓮教団が、近親憎悪の恩讐を超えて、日蓮聖人の真実を追究し、その真実を広く世間に弘めていくことを目的として、この同人誌は発刊されました。

 「罪を憎んで人を憎まず」という言葉がありますが、日蓮教団は盲目的に純粋であればあるほど、ややもすれば「罪を憎んで人まで憎む」という傾向があるのではないでしょうか。また「和して同ぜず」という言葉がありますが、これもまた、日蓮教団はややもすれば、「同ぜざるは勿論、和しもせず」という独善的・閉鎖的な傾向があるのではないでしょうか。日蓮正宗という教団が、ある国において布教を開始したところ、その国の宗教担当官僚から、「日蓮正宗は他の宗教の共存を認めるのか、それともすべての宗教の殲滅を目指すのか」と質問されたそうです。

 独善的・排他的な宗教の行き着くところは宗教戦争の悲劇です。本来、人間を救うべき宗教が、宗教戦争によって人間を苦しめる。そのような自己撞着に気づくべき時代にわれわれは生きているのです。キリスト教とイスラム教という、同じ一神教の対立が、やがては宗教戦争を引き起こしてしまったという深い反省のもとに、時代の状況を熟慮した勇気ある宗教者によって、平和のための宗教間協力が真剣に討議され始めました。しかし、一部の狂信的な原理主義者は、今なお教えを忠実に守って、ジハードに参加することこそ純粋な信仰の証であると主張しています。

 過去の日蓮主義の例を挙げるまでもなく、現在においても、最も果敢に折伏を実践し、好戦的であると目されている、日蓮正宗、創価学会、顕正会の対立は、目的(正義)のためには手段を選ばないという方向へエスカレートする危うさを孕んでいました。それが日蓮教団の宿命なのかも知れませんが、私は敢えて、「慈悲を説く宗教が、人を憎んではいけない」「人間を救うべき宗教が、宗教戦争によって人間を不幸にしてはいけない」と訴えたいと思います。

 ややもすれば同ぜざるのみならず、和すことさえもしない、閉鎖的な日蓮門下各教団の前に、共通の議論の場として、この同人誌を用意しました。大いに活用していただき、オープンな議論を通じて、互いに切磋琢磨しながら、日蓮聖人の真実を追究していこうではありませんか。日蓮聖人の思想と信仰を教団の中に閉じ込めておいて、世間の人々を教団の内に取り込もうとするのではなく、むしろ反対に、オープンに議論しあって、日蓮聖人の思想と信仰を世間の人々に解放していく。それが時代の要請ではないでしょうか。

 そのような時代の要請に応えて、この同人誌は発刊されました。素人のゆえに編集は未熟であっても、理念はどこまでも高く掲げて、この同人誌の継続に努力してまいりたいと決意しております。

 会員各位にはなにとぞ御協力賜りますよう、伏してお願い申し上げます。